#16「老後2000万問題の盗電構造」――なぜ日本人の93%は、セーフティネットの存在を忘れて『没人間』へ転落するのか?

哲学コラム連載『存在論的コンフリクトの発散』システムと個人はどう折り合いをつけるのか〜

転落の重力

ではどうして実人間は深淵への奈落に引き摺り込まれてしまうのか。

そこには人間の根源的な防衛本能が媒体として働いている。それは不安と恐怖である。

世間で喧伝される不安や恐怖のメッセージは挙げれば枚挙にいとまがないが、あえて例を挙げるのあれば、主要なものとしてお金の不安がある。

年金が十分な額、老後に払われる確証がないと自分の足場が崩れかけている感覚がし、ある種の地震によって自分の主権的な幸福が音を立てて崩れていき、その恐怖からお金を貯めることで、預金残高の虜になる。

先述の通り、記号的生産の主権者は貨幣であり、システムは貨幣を人質にとることで、人間を異形化させ没人間へ加工し、交換可能な労働力として働かせられるのだ。

次に社会のレールから外れる恐怖である。中学を出たらいい高校に、いい高校を出たらいい大学に、いい大学を出たらいい企業にいい人と結婚していい家を建てていい老後を過ごす。こうした社会の用意した生産的なベルトコンベアのラインから外れる恐怖を教育によって喧伝することによって交換可能で便利な使える労働力を育てていくのである。

それに人間は抗えないのだ。なぜなら人間は生きる意味も目的も与えられないまま突如地球に産み落とされてしまった以上はひとまず周りの生き方を見て模倣するのが間違っていない生存戦略であろう。ハイデガーの言う被投性である。

しかしその人間力学をシステムは知っている。そのためこうやって生きるのが正解だと言うメッセージをあらゆるメディアを使って喧伝、煽動することで社会にとって都合のいい生き方を提示し、最終的に回し車を回して発電するモルモットになるのだ。

投資において決算報告書の数字がよくなかったわけではなく、よくなさそうと言う人間の恐怖や、プロスペクト理論による損失回避性によるだけ株価のチャートが乱高下する金融工学のフリをした人間心理と同じもので、経済も感情で動く側面が多かれ少なかれあるものだ。

しかし不安や恐怖という根源的な防衛本能も現代においては過剰反応になってはいないだろうか。国によっても様々だが、日本の場合には生活保護があり、健康で文化的な最低限度の生活が保障されており、生活保護のようなゆとりのない暮らしが嫌でも、選り好みさえしなければ、人手不足の業界であればどんなバックグラウンドがあろうが、相当の危険人物じゃない限りは職にはつける。

それでも生活保護や人手不足の業界があるのにそこにいくことへの過剰な恐怖に苛まれて必死に避けようとする動きが社会の発電によって搾取される理由はそこにいくことによって敗北者の烙印を押されるスティグマへの恐怖を回避しようとしたり、

人手不足の業界に関しては人気の業種を宣伝し、人気のない人手不足の職業に負の烙印を社会が暗に押すことで、そこでもいいと安住させることなく、常に上を目指すように仕向けて、その動力を盗電し社会の発展に繋げるシステムの欺瞞が存在する。

つまり生活保護や人手不足の業界に入ることをスティグマだと解釈させることによって、常に社会の無尽蔵な成長に貢献させるように仕向けているのである。よって結論としてはメディアのメッセージを妄信しすぎか、豊かな暮らしを夢見すぎなのだ。

生活保護や人手不足の業界を恐れている人は先入観に囚われて社会からのメッセージによって見方が曲解されてないだろうか。そういう人は実際にその立場になったことはあるのだろうか。人間は自分が思っている以上にバイアスに囚われているものだ。

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