#10「残業40時間の奴隷道徳」――なぜ自己啓発本に群がる金魚並みの集中力は、日本の労働生産性を先進国最下位に沈めるのか?

哲学コラム連載『存在論的コンフリクトの発散』システムと個人はどう折り合いをつけるのか〜

道徳の汚染

現代では労働の美徳化や、自己啓発の美徳化の進行が顕著だ。

むしろ休日に何もしないことや、自己研鑽をしないことが悪であるという風潮すらある。

これらは人間の道徳でさえも記号的生産の支配下に置く試みである。

例えば上司より早く帰ってはいけないと言う因習や、残業すれば真面目で仕事熱心だと思われて、定時帰りを常習的にすると不真面目で自分勝手だと言う特に日本社会の伝統的な旧態依然とした道徳がある。

これはニーチェの唱える奴隷道徳の一種だろう。自分は定時に帰るほどの仕事の処理能力がないと言うことで弱者側に立つが、その立場を利用していつも定時で帰れる仕事のできる強者を貶めることで、自分の立場を上げようとする試みであろう。

冷静に考えてみて、毎回残業しているのは人からの仕事を断れずに引き受けすぎる軟弱な精神を持っている人間か、はたまた定時に仕事が終わらない無能である。

それを長く働く人間が偉いと言う奴隷道徳で自分の無能さを隠蔽し、それに付随するように長く働いてもらうことで記号的生産をさらに加速させるモルモットを量産する試みが労働の美徳化である。現に日本の労働生産性は先進国の中でも最高クラスの最低具合だ。

自己研鑽の美徳化に関しても先ほど述べた休日返上で自己研鑽することの美徳化が顕著にあらわれ出ている例であろう。

これもいろんなメディアや特に書店などで、効率化や仕事術をうたう自己啓発本が蔓延っていることが主要な要因である。

特に本屋に行くといつも全面的に並べられているのは自己啓発本である。人文思想などの本はと言うと、はじに押しやられているのが現状だ。

そして自己啓発本の構成で多いのがアフォリズム形式だ。こうすればドーパミン中毒で短期間に刺激がないと満足できなくなり、金魚並みの集中力しかないと言われている現代人にも手に取ってもらいやすくなる。

余談だが5分で泣ける小説といったものも出始めてきたが、これもショート動画ばかり見ている若者向けの本であり、書物は急速に陳腐化してジャンクフードと化している。こうして自己研鑽や自己啓発はメディアの策略によって人間の道徳にまでも記号的生産の魔の手を忍ばせるようになった。

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